2009-03-22 12:35:02
ケンカに勝つ契約書の作り方(契約書に潜む真のリスクにお気づきですか?)
契約書は経営判断の塊
契約書は経営判断の塊です。契約条件ひとつで、会社を潰しかねないリスクを背負い込むことは十分にありえます。にもかかわらず、取引の際の契約書が無かったり、ろくに読みもせずに押印したりしていることがよくあります。「契約書は弁護士にチェックさせているから大丈夫」という経営者がいますが、この考え方は極めて危険です。弁護士は法律のプロではあっても事業のプロではなく、また弁護士も専門分化が進んでおり取引契約に強い、弱いがあります。なにより、事業のポイントを熟知しており、最終的に全責任を負うのは、経営者に他ならないのです。
契約書で押さえるべきポイントは多岐に渡りますが、本稿では売買契約で最も重要な「契約金額」を切り口に、売主の視点から説明します。
契約金額を決めずに仕事を始めるのは自殺行為
例えば納期の関係で買主から早期着手要請があり、契約金額が決まらない状況で、売主が仕事を開始してしまうケースがあります。しかしこれは売主自ら価格交渉力を放棄する行為に他なりません。納期が遅れて困るのは買主であり、売主としては「価格が決まるまで仕事はできない」というポジションを維持すれば、時間の経過と共に逆に価格交渉力が高まるのです。逆に売主が先行して仕事を進めてしまうと、「契約金額が合わないため契約しない」という最後の手段を取ることが難しくなってしまいます。つまり、契約を締結しないと、進めた仕事が逆に損失となってしまうため、不満足な価格でも決着せざるを得ない状況となりかねません。この場合、納期を考えて材料だけ先行手配できるように限定的な契約を行い、その以外の部分は引き続き契約を詰めていく、といった方法を検討することとなります。
採算悪化リスクのコントロール
契約期間中に想定外の材料費高騰の可能性や、海外取引の場合は大幅な為替変動リスクが考えられます。売主が一方的にコントロール不能なリスクを負わないよう、契約金額の前提条件を明確にし、前提条件が変わった場合の価格調整方法を契約書に織り込んでおくことが重要です。相手方との力関係などの理由で契約書に価格調整方法を織り込めない場合、例えば材料費の高騰リスクに対しては、材料調達先との間で取引価格を固定する、為替変動リスクには為替予約するなど、リスクを転嫁し、転嫁しきれない部分は自分のリスクとして管理することとなります。
支払い条件のポイント
支払い時期が後ろ倒しになればなるほど、多くの運転資金が必要となり、借入金利などの資金調達コストが発生します。つまり、支払い時期はコストに影響を与えるため、契約金額と支払い時期は同時に決める必要があります。
また、不払いリスクや支払い遅延リスクに対しても、契約条件での防御が必要となります。不払いリスクに対しては、「商品代金完済時に売主から買主に所有権が移転する」と決めることで、売主としては不払いの際に商品を取り戻す権利を確保できるため、買主に対して代金支払いを間接的に強制することができます。支払い遅延については、例えば前金の入金がない場合は、売主はその時点で仕事を止め納期延長できる権利や、買主の重大な契約違反として解約の権利を確保しておくことが考えられます。また、遅延損害金として、法定利息よりも高い利息を定めておくことも有効です。
リスクの上限を決める
もし、あなたが100万円で機械を販売し、買主から「機械の故障が原因で、1000万円の利益が上がる商談を逃した」として逸失利益1000万円の損害賠償請求を起こされた場合、「100万円の商売で1000万円支払えと言われたら商売にならない」と考えるのではないでしょうか。このような事態を防止するため、損害賠償額の上限を設定することが有効です。上限については、契約金額を上限とするケースがよくあります。ただし、この上限規定はあくまで契約当事者間の取り決めであって、契約当事者以外の第三者に対して何らかの損害が発生した場合には対抗できませんので、注意が必要です。
社の標準契約書の整備
今回ご紹介したポイントはほんの一部でしかなく、例えば納期・保証期間・契約期間などの期間・期限や、品質・性能・保証条件・引渡し条件などの商品・サービスそのものの条件など、押さえておくべきポイントは他にも多々あります。また、リスクの回避・転嫁・管理についても様々な方法があります。取引契約に精通した経営コンサルタントや弁護士のサポートを得ながら、一度しっかりと事業リスクを把握し、社の標準契約書を整備し、押さえるべきポイントを整理しておくことをお勧めします。