2009-07-01 23:04:25
商売の極意と魚取り
升田幸三氏の「勝負」(中公文庫)を再読した。
升田幸三氏は言わずと知れた将棋指しである。14歳で家出するとき、母親の物差しの裏に「この幸三、名人に香車をひいて勝ったら大阪に行く」と書置きした。
そして昭和31年の王将戦で、大山名人に対して3局続けて勝利し、当時のルールに従って4局目に香車落としで戦い、それにも勝利した。その後、香車落としのルールがなくなったため、「名人に対して香車落としで勝つ」という空前絶後の記録を残した、型破りな将棋指しである。
氏が子供の頃に、泳いでいる魚を素手でつかめるようになった話。
最初の頃は手を出すだけで魚が逃げ出したが、いくらやっても捕まえられないので、そのうちあきらめが出てきた。心平和にじーッとしていると、魚が寄ってくるようになり、素手でつかめるようになった。そこに至るまで6,7年かかった。
この話をリコーの創業者の市村清氏にしたところ、「商売も同じだ。客の方から来るから儲かるんだ」と言ったという。
升田氏は書く。「客のほうから来る、というのは、もとはやはり愛情でしょう。愛情のあるふうを偽装しとるやつにはよけい警戒して逃げるけど、本物なら向こうからやってくる」
結局、升田少年は、魚は取れるが、親しそうにやってきたやつを焼いて食うことが可哀そうでできなくなったそうだ。