「そんなことしたら、商売が甘なるんや」とその経営者は言った~事業計画はイズミ行政書士・中小企業診断士事務所まで

実家でほこりをかぶっていた、開高健の本を何冊か持ち帰った。開高健は学生時代によく読んでいた作家だ。そのなかの一冊をペラペラとめくっていると、とある芸人の話が出てきた。その芸人は売れっ子になっても、いぜん長屋に住みつづけ、夜遅くに風呂屋に通って深刻そうな顔で風呂につかっていた。なぜそんなことをするのか、開高健がたずねたところ、「アブラが落ちまんのや」と答えた。そういえば、レディーガガも、いまだにNYの狭いアパートに住んでいる。

先日、事業計画書の作成依頼のあったクライアントから、酒を飲みながら聞いた話を思い出した。そのクライアントの父親は、戦後、学はなかったが、道端の物売りから、年商数百億円の会社を築いた。創業者の父親が、道端で物売りをしていたとき、何を売ってもすぐに売り切れたが、仕入に金を全額突っ込むことなく、必ず、売上から一定割合の金額を自分の取り分として手元に残した。
クライアントが、「全部売れるのであれば、なぜ仕入にお金を全額使わなかったのか?」とたずねたところ、父親はこう答えたという。

「そんなことしたら、商売があも(甘)なるんや」

この言葉は色々な解釈ができる。「自分の働いた分はきちんと取った上で、どれだけ利益があるか見極めないと、本当に儲かっているのかどうかわからない」とも解釈できるが、やはり「金に余裕があると、ひとつひとつの判断や交渉が甘くなったり、新しい挑戦をしなくなったりして、商売人として油が落ちてしまう」と解釈すべきではないだろうか。この人は、金の恐ろしさ、商売の難しさをよくよく知り抜いていたと思われる。

事業や生活が安定し、お金に余裕が出てくると、起業してわずか2~3年でも、起業者から、事業を立ち上げた頃の必死さが急速に薄れていく。金に困っていた頃のことを忘れ、雑な金の使い方をしてしまったり、つきあいと称して遊び始めたりする。別に遊ぶことは悪いことではない。しかし、さらに経営者として、次のステージに向かうつもりがあるのであれば、心のどこかで、自分に対し、「俺は甘くなっていないだろうか?」と常に問い続けるべきではないだろうか。

クライアントの父親が育て上げた会社は、クライアントとは別の人が2代目となり、10年ほど前に倒産した。その2代目は大きな家に住んでいたという。クライアントは、父親が作り上げた、一族の名前のついた社名を残すため、倒産処理に奔走し、会社を去った。創業一族が去ったその会社は、今でも大阪のど真ん中にある複数のビルに、クライアントと同じ苗字が入った看板を大きく掲げている。そしてクライアントは、10年前にゼロから自分ひとりで事業を立上げ、70歳になった今、300人もの従業員を抱える会社を経営している。そして、「まだまだこれから50年は生きる」と言って、新しい事業のために私に事業計画書の作成を依頼してきたのだ。

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